
歌劇「椿姫」の登場人物とあらすじ 渡部成哉

前奏曲。8本のヴァイオリンが4部に分かれ、うら寂しい前奏曲を弾き始める。この冒頭の部分は、調を変え、形を少しだけ変えて第3幕(ヴィオレッタの死の床の場面)の幕あきで再び演奏されるので、ご記憶いただきたい。 うってかわって、上昇音型のわきたつようなオーケストラに続いて幕が開くと、第1幕。舞台はパリ。高級娼婦・ヴィオレッタの邸宅の大広間。パーティーに招かれた客たちがおり、また続々と到着する客もあってサロンははなやかだ。ガストン子爵は、友人のアルフレードをヴィオレッタに紹介する。フローラ、ドビニー侯爵、医師のグランヴィルら常連は、純朴そうなアルフレードに好感を抱くが、ヴィオレッタのハトロンをきどるドゥフオール男爵だけは、この青年が何となく気に入らない。機嫌をそこねた男爵にかわって、アルフレードが即興の歌を歌い、乾杯の音頭をとることになる。有名な“乾杯の歌”である。アルフレードが歌い、ヴィオレッタが歌い、人々がそれに合わせて歌うなか、「人生は宴の中に」という享楽的なヴィオレーソタに対して、「それは、愛を知らぬから」と、アルフレードは控え目な思いを語る。乾杯のあと、別室でのダンスに皆を案内しようとしたヴィオレッタは、青ざめて座りこんでしまう。ひとり残って鏡をのぞいていた彼女は、そこにアルフレードの姿を見つけて驚いた。アルフレードは、こんな生活をやめるようにと、忠告し、「一年も前からずっと思っていた」と愛の告白を始める二重唱となる。ヴィオレッタは、それを受け流すが、別れぎわに、「この花がしおれたら持っていらして」と、胸にさした花をアルフレードに与えるのだった。アルフレードが去り、酒に酔いじれ、踊りにも疲れた客たちが暁とともに去って、ひとり残されたヴィオレッタは、自分の中に不思議な感情がわき起こったのを感じる。ソプラノ屈指の名アリアと呼ぶにふさわしい音楽の始まりである。これはおよそ4つの部分から出来ていて、まず自分の中にめばえた愛の感情を語るレチタティーヴォ、続いて、心のどこかでその出現を待っていたのは「多分あの方だわ」と歌われる旋律と、先の二重唱でのアルフレードの歌をそっくり模したメロディーとが巧みに組み合わされた音楽が続く。ふと我にかえった彼女は、「バカなことを」とその思いをふり払うように歌い、“花から花へ”(正確には「喜びから喜びへ」)と俗称される華やかな最終部分へ突入する。効果的に挿入されるアルフレードの歌をふり切るように歌いあげて、幕となる。
第2幕第1場は、パリ郊外の家。遊びの恋に生きてきたヴィオレッタも、結局アルフレードとの間に真実の愛を見出し、三カ月の間一緒に暮らしている。アルフレードは、「あの人から離れてはよろこびはない」と歌う。しかし、その暮らしは、ヴィオレッタが財産を処分して支えられていることを女中のアンニーナから聞かされ、金策のためパリヘ出かけていく。入れ違いにやって来た初老の紳士は、アルフレードの父親(ジョルジョ・ジェルモン)と名乗り、ヴィオレッタを驚かす。彼女が息子の財産を食いものにしていると誤解していたジェルモンは、財産処分の書類を見せられ、自分の非礼を詫びるものの、説得の手はゆるめない。「二人の子のうち、妹が嫁ぐことになっている」と言われたヴィオレッタは、邪魔にならぬようしばらくアルフレードと離れていようと答えるが、ジェルモンの望むのが永遠の別れだと知ってショックを受ける。「彼と別れるくらいなら、死んだ方がいい」と抵抗するヴィオレッタではあったが、とうとうジェルモンの説得に負け、二通の手紙を書く。一通は縁を切ったはずのフローラの夜会に出席する旨の返事、そしてもう一通はアルフレードヘの別れの手紙。手紙の封印を終えたところにアルフレードが戻ってきた。ヴィオレッタは、アルフレードヘの深い愛を心に抱きながら出て行く。近くまで来ているらしい父親のことが気がかりなアルフレードは、召使いのジュゼッペから、奥様
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